12月の晴れた朝が好きだ。
早めに出勤して、窓から海を眺めながら珈琲を飲む時間はとても大事。思えば今年は春から秋までほとんど自宅時間だったが、今にして思えば一体何をしていたのだろう。国道134号線の朝の渋滞も昨年と少しも変わらない。月曜の朝に出社すると、社長のウェットスーツがユラユラ干してあって一瞬怖いのも以前通り。
そんな12月の風物詩と言えば忠臣蔵と第九である。第九とはつまりベートーヴェンが作曲した『交響曲第9番 ニ短調 作品125 合唱付き』という70分くらいある大曲のことだ。演奏家には大変申し訳ないのだが、私には「笑ってしまうクラシック」というカテゴリがあり、この第九はその中のひとつである(他の笑ってしまうリストはドヴォルザーク『交響曲9番 新世界より』や、R.シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』=2001年宇宙の旅のアレ、ブラームス『交響曲第1番』、チャイコフスキー 『ピアノ協奏曲第1番』などがラインナップされている)。これらの作品に共通していることは、「ほぅらキタキタキターーー!」と私が1人で盛り上がって笑ってしまう、という点だ。変な曲だからおかしい、というわけではない。むしろ全部メジャーな、傑作とも言われている作品たちである。
今年はベートーヴェン250回目の誕生日ということで(12月16日と伝えられている)、先週はどこもかしこもベートーヴェン祭りの様相であった。とは言ってもそのほとんどがオンラインで、今年予定されていたメモリアルコンサートはほとんど中止されたのだと思う。ベートーヴェンもさぞかしがっかりだっただろう。
私は基本的にピアノ原理主義なので、いくつかの例外があるにせよ交響曲の類は苦手だ。ベートーヴェンもさりとて興味があるわけではないのだが、今年はそんな記念イヤーだし、私もピアノで彼のソナタ に取り組んでいるので、たまには『第九』を生で聴いてくるか、ということでミューザ川崎へ。今年の音楽活動の〆だ。
ここは川崎駅からすぐの音楽ホールなのだが、私が初めて海外オケの音に衝撃を受けた思い出のホールでもある。あの時はフィラデルフィア管弦楽団だった。アシンメトリーの不思議な形をしており、音の響きはサントリーホールよりいいんじゃないかと思っている。
今回は東京交響楽団の演奏で、指揮者は秋山和慶さん。かなりのお年のようにお見受けしたが、背筋がシャン!と伸びた、溌剌とした指揮姿であった。日本のオケはこの時期どこも必ず第九をやるので、皆さん危なげない。私は第2楽章が好きなのだが、突如バリトンから歌が入ってくる第4楽章は確かに楽しい(ゆえにいつも笑ってしまうのだ・・・今回もマスクの下で笑ってしまった)。こっちも一緒に「ふろいで!!」と叫びたくなる。
でも、やはりベートーヴェンの作品はくどいのが多い。結構うんざりする。とりたてて好きな作曲家ではないのだが、人間としてはけっこう好きになれそうな人物だと思っている。
第九を聴いたからと言って年末気分が盛り上がるとはあまり思わないのだが、オケと合唱が堪能出来るという点では3年に一度くらいは生で聴いてもいいと思う。ちなみにこれからオーケストラの演奏会に行ってみたいと思う人にお勧めなのは断然ラヴェル作曲の『ボレロ』。それぞれの楽器の音がよくわかり、おまけに各楽器のソロパートの緊張感も味わえ、曲自体が変態とも言えるので生で聴くにはとても楽しい。毎回、シンバルの人が構える時に私のカタルシスは最高潮に達する。交響曲なら私の「笑えるクラシックリスト」にあるドヴォルザークの『交響曲第9番 新世界より』。映画音楽みたいだから聴きやすいし、よく知られた旋律も出てくる。
今回、残念だったのはアンコール。
なくてもいいアンコールもあるのだな、と初めて思った。曲目は『蛍の光』(日本語)で、圧倒的に辛気臭い。おまけにペンライトみたいなのをステージ上で振り出した。私こういう安っぽい演出ダメなんです。第九がカッコよく終わったのに、これは要らない。どうせなら『乾杯の歌』とかのほうがノリノリで明るい気持ちになれて良かったんじゃないかと思う。
今年は美術活動より音楽活動のほうが自分の中では優位だった。3月に自宅時間に入ってからピアノの位置を変え、真剣に毎日練習するようになったら上達したし、今もそれは日課として根付いている。たくさん弾いたしたくさん聴いた。美術活動のほうは良い展覧会や美術館へは行けたが、学校がクローズされたり、スクーリングが遠隔のみになったりでちょっとモチベーションが落ちたのは否めない。しかし4月からはいよいよ最終年度なので気合を入れなければ。